そして釈尊は語られました。 私は過去世に於いて、国王として生を受けたことがありました。 しかし、国王となっても心は常に大いなる法を求めていたのです。 すると ある時仙人がやってきて 「もし良く修行するならば、妙法蓮華経という大法を説こう。」 と言われました。 私はすぐさま政を太子に任せ、仙人に随ってその弟子となり日々仕えたのです。 そしてこの法により、遂に成佛を得ました。 その時の仙人とは今の※1提婆達多なのです。 提婆達多の善知識に由るが故に 私は※2六波羅蜜などの佛の智恵を得て、広く衆生を導いてきたのです。 提婆達多は無量劫が過ぎ去った後、當に成佛することでしょう。 名を天王如来といい、その世は天道と言われることでしょう。 天王如来の寿命は67億年、正法も又67億年に及びます。 その舎利を奉る宝塔は、高さ670キロ 幅450キロに達することでしょう。 人々は皆、この塔を供養し、そして悟りへと導かれてゆくのです。 釈尊は大衆に告げられました。 未来世の中に、もし善男子・善女人あって 妙法華経の提婆達多品を聞いて 浄心に信敬して、疑惑を生ぜざらん者は 地獄・餓鬼・畜生に堕ちずして十方の佛前に生ぜん 所生の処には、常にこの経を聞かん もし人天の中に生るれば勝妙の楽を受け もし佛前にあらば、蓮華より化生せん その時に多宝如来と共にやってきた智積菩薩が佛前へと進み出て言いました。 「私は本土へ帰りたいと思うのですが・・・」 釈尊は言われました。 「善き者よ、暫く待たれるのが良いでしょう。 ここに文殊師利という菩薩がいます。 彼と妙法を論説してから帰られては。」 すると千葉の蓮華に座した文殊師利菩薩が海中から現われ 二世尊を礼拝して、智積菩薩の前に座しました。 智積菩薩は問いました。 「あなたが海中の龍宮に於いて導いてきた衆生は、 どのくらいおられるのですか。」 「その数は計り知れません。自ら御覧になられるのがよろしかろうと思います。」 すると瞬く間に無数の菩薩が海中から現われました。 その菩薩たちは皆 文殊師利に導かれた者たちだったのです。 文殊師利菩薩は言いました。 「私は海中に於いて 唯、妙法華経を説いていたのです。」 智積菩薩は問いかけました。 「此の経は甚だ深遠微妙にして諸経の中の宝、世に希有なる教えです。 この経を修行し 佛と成られた方はおられますか。」 文殊師利菩薩は答えました。 「在ります。娑竭羅龍王の娘は生まれて八歳ですが、 智恵賢く、衆生の行いとその業を知り、佛の教えを良く持っております。 そして、衆生を赤子のように慈しみ、常に穏やかであります。」 智積菩薩は言いました。 「釈尊は無量劫の間 徳を累ねて菩薩の道を求められ、 三千大千世界に於いて菩薩として身命を捨てられなかった処は 芥子粒程もありません。 それなのに、八歳の娘が菩提を得たとは信じられません。」 すると言い終わらぬ内に龍王の娘が現われ、釈尊を礼拝し、座の片隅に座して 語りました。 「深き福相と※3三十二相八十種好を以って、私の身は飾られております。 この菩提を成し得た事は、唯、佛のみ御存知でありましょう。」 その時に舎利弗は龍女に語りました。 「あなたが無上道を得たと思えることは信じ難い事です。 なぜなら女の身は穢れ多いからであります。 佛道とは、遥かなものであり、無量劫という時が過ぎ去った後に成し得るものです。 又、女人の身には五つの障りが有り、 一つには梵天王・二には帝釈・三には※4魔王・四には転輪聖王・五に佛身、 これらに成ることは出来ません。どのように女の身で成佛し得たのでしょう。」 その時に龍女は、一つの宝珠を持っておりました。 その価は、三千大千世界と等しいかという代物です。 その宝珠を、龍女は釈尊に献上し、世尊は速やかにそれを嘉 納されました。 すると龍女は瞬く間に男子と成って、南方に赴き蓮華に座して妙法を演説したのです。 その様を見た衆生は心に大いなる驚きと喜びを得ました。 智積菩薩と舎利弗及び全ての人々は、黙したままこれを信受したのです。 (妙法蓮華経勧持品第十三へ続く) |