その時 宿王華菩薩は釈尊に問われました。 「世尊、薬王菩薩は幾千万億という困難があるにもかかわらず、 なぜ娑婆世界におられるのでしょうか。 諸天を始めとした我々聴聞する者たちにどうかその訳を説いて下さいませ。」 すると釈尊は宿王華菩薩に告げられたのです。 無量恒河沙劫という遥かな昔、日月浄明徳如来という佛がおられました。 かの佛には八十億の菩薩を始めとした七十二恒河沙という弟子たちがいたのです。 その寿命は七千億年に達し、その世界には女人・地獄・餓鬼・畜生・阿修羅の者や 諸難が有ること無く、地は平らにして、高貴な香りが満ちておりました。 多くの宝樹の下には仏弟子らが座を造り、天からは伎楽が聞こえてくるのでした。 その世において日月浄明徳如来は一切衆生喜見菩薩を始めとした弟子たちに 法華経を説かれていたのです。 そこで一切衆生喜見菩薩は一万二千年もの間仏道を精進し、一心に佛を求めて ついに※1現一心色身三昧を得たのでした。 そして、 「私が現一心色身三昧を得ることができたのは法華経を聴くことができた故である。 私は日月浄明徳如来と法華経に當に供養をしよう。」と誓いました。 そして三昧に入られると、天より種々の華々や香が降り濯ぎました。 更に、 「私は神力だけでなく、この身を以って供養しよう。」 と思い立ち、千二百年の間 香を飲み、香油を身に塗り、 そして日月浄明徳如来の前に於いて、その身を燃やしたのです。 その光は八十億恒河沙という世界を照らし、その世界の佛は 皆このように賞賛されました。 善哉 善哉 善 男子 是れ真の精進なり 是れを真の 法をもって如来を供養すと名く 諸の施の 中において最尊最上なり 法を以って諸の 如来を供養するが故に その身の火は千二百年間 燃え続け、やがてその命は尽きました。 しかし一切衆生喜見菩薩は再び日 月浄明徳如来の世へ生まれ出たのです。 すると再び如来の前に赴い て礼拝し、このように語りました。 「汚れない顔の主、私はあなたに最高の供養をし、そして再び見える為 ここに参りました。 今もなお、ここにおられるのですね。」 すると日月浄明徳如来は告げられました。 「善き者よ、私は滅度の時が来たようだ。最後に床を造ってはくれまいか。 今夜にも涅槃へと至るだろう。善き者よ、私は仏法をお前に嘱 累したい。 阿耨多羅三藐三菩提の法 三千大千世界、及び私の舎利を付属したい。 私の滅度の後は、當に 塔を起ててこの法を広めて欲しい。」 そして、その夜 涅槃に入られたのでした。 一切衆生喜見菩薩は嘆き悲しみ、香木を以って如来を荼毘に付しました。 そして八万四千の塔を建立し、その舎利を納めた後、 「私の心は未だに癒えない。 當に日月浄明徳如来の舎利を供養しよう。」と思い、 その臂を七万二千年もの間 燃やし続けて供養したのです。 すると その様を見た数多くの仏道を求める者たちには 阿耨多羅三藐三菩提を求める心が発ったのでした。 そして、その火が燃え尽きると一切衆生喜見菩薩の臂は無くなり、 大衆は かの菩薩の身が不自由になったことを嘆きました。 その時一切衆生喜見菩薩はこのような誓言を起こしたのです。 「私は両の臂を捨てたが、それによって金色の佛身を得るだろう。 この言が真実であるならば、我が両の臂は速やかに元通りとなれ。」 その時 地が揺れ動き、天からは華々が舞い落ちました。 すると、瞬く間に一切衆生喜見菩薩の臂は元通りとなったのです。 釈尊は宿王華菩薩に告げられました。 どうであろう、一切衆生喜見菩薩はまさに薬王菩薩その者 なのです。 その身を捨てて布施を行った処は無量百千万億那由他数に及びます。 宿王華よ。 もし阿耨多羅三藐三菩提を得ようと発心する者は その手や足の指を燃して仏塔に供養しなさい。 それはあらゆる宝物を供養することに勝る供養となるでしょう。 また 七宝を以って佛や菩薩に供養を行うよりも、この法華経の一四句偈を受持すること、 その功徳の方がはるかに大きいのです。 宿王華よ、 譬えば一切の河川の中で海が第一であるように、 また 数多くの山々の中で※2須弥山が第一であるように、 この法華経は諸の経法の中に於いて最も第一であるのです。 當に諸経の王と言えるでしょう。 此の経は、寒き者が火を得るが如く、裸の者が衣を得るが如く、 病の者が医者を得るが如く、諸の苦悩から一切の衆生を救い、その願を充たすのです。 衆生から、一切の苦、一切の病痛、一切の生死の迷いを除くことでしょう。 この薬王菩薩本事品を聞く者は、無量無辺の功徳を得るのです。 もし女人が、この薬王菩薩本事品を聞いて、よく受持するならば、 後の世に於いて、女の身を受けず、その命尽きた後、阿弥陀如来の世に於いて、 蓮華の宝座に生まれることでしょう。 さらに、怒りや愚痴に悩まされることなく、 清浄なる眼を以って、数多くの佛を見るのです。 この時に諸仏はこのように讃えられました。 善哉善哉 善男子 所得の福徳 無量無辺なり 百千の諸仏 神通力を以て共に汝を守護したもう 一切世間の天・人の中に於いて汝に如く者なし 宿王華よ。 この薬王菩薩本事品を、あなたに嘱累します。 私が滅した後、後の五百年の中に於いて、 この法を広め、また この法を諸の魔より守りなさい。 所以は何ん。此の経は則ち為れ※3閻浮提の人の病の良薬なり 若し人 病あらんに是の経を聞くことを得ば 病 即ち消滅して不老不死ならん この経を受持する者を見たならば、香を以って供養し、 「この方は諸の魔を破り、一切の衆生の老病死の迷いを除く方である。」 と敬い念じなさい。 釈尊がこの薬王菩薩本事品を説かれた時、 八万四千の菩薩は解一切衆生語言陀羅尼を得まし た。 そして多宝如来は宿王華菩薩を讃えられ 善哉善哉 宿王華 汝 不可思議の功徳を成就して 乃ち能く釈迦牟尼仏に此の如きの事を問いたてまつりて 無量の一切衆生を利益す。と語られたのです。 (妙法蓮華経妙音菩薩品第二十四へ続く) |