その時に、無尽意菩薩は右肩をあらわにし合掌を以って立ち上がると、 「世尊、観世音菩薩はなぜ観世音と云われるのでありましょう。」 と釈尊に問いました。 善き者よ。 人々が悩める時に この観世音の名を聞いて一心に唱えるならば その者は必ずや世の迷いから離れるのです。 もし、観世音の名を心に持ち、その力を念ずるならば、 その者は、火難・水難に遭う 事は無いでしょう。 また、女性が子を求めるならば、智慧豊かにして、人々に愛される子を授かるのです。 さらに、世の悪しき者たちに襲われる事は無く、諸々の欲から離れることでしょう。 それ故に皆、観世音菩薩の名を讃え敬うのです。 それにより限りない功徳を得ることでしょう。 すると、無尽意菩薩は 「世尊、観世音菩薩が法を説かれる様はどのようなものでありましょうか。」 と尋ねました。 善き者よ。 観世音菩薩が法を説くときとは、 出家の身を以って説くべき者には、その姿となり、 天の神々の姿を以って導くべき者には、その姿を示すのです。 また、王や臣下、子供の身を以って説くこともあるでしょう。 この故に、観世音菩薩を敬いなさい。 すると、無尽意菩薩は、 「世尊。私は今、この首に掛けましたる宝珠を、観世音菩薩に捧げたいと想います。」 そう言って、首の※1瓔珞を外しました。 しかし、観世音菩薩は、それをすぐには受けようとはしなかったのです。 「観世音よ。無尽意菩薩、そして、なにより一切の衆生・天の神々を憐れむが故に その瓔珞を受けるのです。」 このように釈尊は、勧められました。 すぐさま、観世音菩薩は、その瓔珞を受け取りました。 そして それを二つに分けると、一方を釈尊へ、もう一方を多寶塔へと捧げたのです。 それを見守られた釈尊は、次のように述べられました。 汝 観音の行を聴け 善く諸の方所に応ずる 弘誓の深きこと海の如し 衆生 困厄を被って、無量の苦身を逼めんに 観音妙智の力、能く世間の苦を救う 観世音浄聖は、苦悩 死厄に於て、能く為に依怙と作れり 一切の功徳を具して 慈眼をもって衆生を視る 福聚の海無量なり。是の故に頂礼すべし。 すると、持地菩薩は座より立ち上がり、 「世尊、この観世音菩薩品の神通を聞く者の功徳は、甚だ多いことでありましょ う。」 と述べました。 この時 座に連なる八万四千人の者たちは 阿耨多羅三藐三菩提を求める心を起こしたのであります。 (妙法蓮華経陀羅尼品第二十六へ続く) |