すると釈尊は座の人々に語られました。 遠い遠い昔のこと、雲雷音宿王華智如来という佛が居られました。 その国を光明荘厳といい、その世を喜見といいます。 そしてそこには妙荘厳王という王がおられました。 かの王には浄徳という妻と浄蔵・浄眼という二人の息子がいたのです。 二人の王子は智慧明るく、仏法を修し、諸の※1三昧を得ていました。 やがて父王を仏道へ導きたいと想い、母に懇願したのです。 すると母は、 「あの方は仏道ではなく婆羅門の教えを信じておられます。 あなた方が行って仏道へと導いてあげて下さい。 その為には※2神変を現すのも良いでしょう。 それを見れば 心も変わり、佛の所へと行かれるかもしれません。」 それを聞いた二人は父を想うが故に、その所へ行って様々の神変を現したのです。 それは虚空に留まり、身の上からは水を出し 身の下より火を出すというものでした。 やがて、その様を見ていた王は深く信解したのです。 そうして二人に向かって合掌し 「お前たちの師はどなたであろう。」 と尋ねました。 「そのお方は 今 七宝の法座に座しておられるお方、雲雷音宿王華智如来に他なりません。 かの如来は広く法華経を説かれておられます。我等はその弟子なのです。」 すると王は、 「では行って、その方にお会いしよう。」 と言ったのでした。 この言葉を聞いた二人は、母のもとへ戻り 「我等が父王は阿耨多羅三藐三菩提を求める心を起こされました。 私達は父王が仏道へと入られるきっかけを作ることができました。 母上、どうか私達も如来の所で出家することをお許し下さい。佛には会い難いものなのです。」 と願いました。 それを聞いた浄徳夫人は、 「わかりました。許しましょう。何と言っても佛には会い難いのですから。」と答えたのです。 すると二人は、 「佛にお会いすることは、例えば一眼の亀が浮木の孔に出会うが如く、 又 優曇華の花の如く 難しいものです。 ですが、我等は善き縁により、巡り会うことができました。 できるなら、父と共に雲雷音宿王華智如来の所へ参りましょう。」 すると、二人と夫人は、よく仏法の三昧を修した後、 父王 後宮の者達と共々に、如来のもとへ向かいました。 そうして、如来の所へ至ると、皆、礼拝し、一面に座したのでした。 彼の如来は、王の為に法を説かれました。 それを聞いた王は大いに喜び、頸の瓔珞を如来に捧げるほどだったのです。 すると雲雷音宿王華智如来は語られました。 「座のものたちよ、妙荘厳王が立ち上がり、合掌しているのが見えますか。 この王は、私の弟子となり、精進して娑羅樹王という佛となるでしょう。 国を大光といい、その世は、大高王といわれるのです。」 この言葉を聞いた妙荘厳王は、即座に王位を弟に譲り、 妻と息子 後宮の者たちと共に出家しました。 そうして、王は八万四千年もの間、妙法華経を修していました。 やがて、王は※1一切浄功徳荘厳三昧を得たのです。 王は、その三昧を得ると、虚空へ昇り、如来の所にて、 「私は、二人の息子に導かれ、こうして仏道を学ぶ縁を得ることができました。 あの子たちは、私の善知識であります。 過去世の善縁の故に、私を導こうと、我が家に生まれたのでありましょう。」 それを聞いた雲雷音宿王華智如来は、妙荘厳王に告げられました。 是の如し是の如し 汝が所言の如し 若し善男子善女人 善根を種えたるが故に 世世に善知識を得 其の善知識は能く仏事を作し 示教利喜して阿耨多羅三藐三菩提に入らしむ 大王 當に知るべし 善知識は是れ大因縁なり それを聞いた妙荘厳王は、佛の功徳を褒め讃え、一心に合掌し、 「如来の法は不可思議微妙の功徳を具えております。 私は、今日より、心の赴くままに行わず、悪しき心を起こさないことを誓います。」 そう言って礼拝し、座より去ったのでした。 釈尊は、大衆に告げられました。 「この妙荘厳王は、今の華徳菩薩であり、 浄徳夫人は、光照荘厳相菩薩に他なりません。 そして、二人の王子とは、薬王・薬上菩薩のことなのです。 この薬王・薬上菩薩は、このような大功徳を成就し、 無量百千万億の諸仏に仕え、行を修したのです。 この、二菩薩の名を識るものは、天人や世の人々に敬われることでしょう。」 世尊が、この妙荘厳王本事品を語られた時、 八万四千人のものが、汚れから離れ、清浄なる眼を得たのでした。 (妙法蓮華経普賢菩薩勧発品第二十八へ続く) |