妙法蓮華経妙荘厳王本事品みょうしょうごんのうほんじほん第二十七  


 すると釈尊は座の人々に語られました。
 遠い遠い昔のこと、雲雷音宿王華智うんらいおんしゅくおうけち如来という佛が居られました。
 その国を光明荘厳こうみょうしょうごんといい、その世を喜見きけんといいます。
 そしてそこには妙荘厳王みょうしょうごんのうという王がおられました。
 かの王には浄徳じょうとくという妻と浄蔵じょうぞう浄眼じょうげんという二人の息子がいたのです。
 二人の王子は智慧明るく、仏法を修し、諸の※1三昧さんまいを得ていました。
 やがて父王を仏道へ導きたいと想い、母に懇願こんがんしたのです。
 すると母は、
 「あの方は仏道ではなく婆羅門ばらもんの教えを信じておられます。
 あなた方が行って仏道へと導いてあげて下さい。
 その為には※2神変じんぺんを現すのも良いでしょう。
 それを見れば 心も変わり、佛のみもとへと行かれるかもしれません。」
 それを聞いた二人は父を想うが故に、そのみもとへ行って様々の神変じんぺんを現したのです。  
 それは虚空に留まり、身の上からは水を出し 身の下より火を出すというものでした。
 やがて、その様を見ていた王は深く信解したのです。
 そうして二人に向かって合掌し
 「お前たちの師はどなたであろう。」 と尋ねました。
 「そのお方は 今 七宝しっぽう法座ほうざしておられるお方、雲雷音宿王華智うんらいおんしゅくおうけち如来に他なりません。
 かの如来は広く法華経を説かれておられます。我等はその弟子なのです。」
 すると王は、
 「では行って、その方にお会いしよう。」 と言ったのでした。
 この言葉を聞いた二人は、母のもとへ戻り

 「我等が父王は阿耨多羅三藐三菩提あのくたらさんみゃくさんぼだいを求める心を起こされました。
 私達は父王が仏道へと入られるきっかけを作ることができました。
 母上、どうか私達も如来のみもとで出家することをお許し下さい。佛には会い難いものなのです。」
 と願いました。
   それを聞いた浄徳じょうとく夫人は、
 「わかりました。許しましょう。何と言っても佛には会い難いのですから。」と答えたのです。
 すると二人は、
 「佛にお会いすることは、例えば一眼いちげんの亀が浮木うきぎあなに出会うが如く、
 又 優曇華うどんけの花の如く 難しいものです。
 ですが、我等は善き縁により、巡り会うことができました。
 できるなら、父と共に雲雷音宿王華智うんらいおんしゅくおうけち如来のみもとへ参りましょう。」
 すると、二人と夫人は、よく仏法の三昧さんまいを修した後、
 父王 後宮ごぐうの者達と共々に、如来のもとへ向かいました。
 そうして、如来のみもとへ至ると、皆、礼拝し、一面に座したのでした。

 の如来は、王の為に法を説かれました。
 それを聞いた王は大いに喜び、くび瓔珞ようらくを如来に捧げるほどだったのです。
 すると雲雷音宿王華智うんらいおんしゅくおうけち如来は語られました。
 「座のものたちよ、妙荘厳王みょうしょうごんのうが立ち上がり、合掌しているのが見えますか。
 この王は、私の弟子となり、精進して娑羅樹王しゃらじゅおうという佛となるでしょう。
 国を大光だいこうといい、その世は、大高王だいこうおうといわれるのです。」
 この言葉を聞いた妙荘厳王みょうしょうごんのうは、即座に王位を弟に譲り、
 妻と息子 後宮ごぐうの者たちと共に出家しました。
 そうして、王は八万四千年もの間、妙法華経を修していました。
 やがて、王は※1一切浄功徳荘厳三昧いっさいじょうくどくしょうごんさんまいを得たのです。
 王は、その三昧さんまいを得ると、虚空こくうへ昇り、如来のみもとにて、

  「私は、二人の息子に導かれ、こうして仏道を学ぶ縁を得ることができました。
  あの子たちは、私の善知識であります。
  過去世の善縁の故に、私を導こうと、我が家に生まれたのでありましょう。」

 それを聞いた雲雷音宿王華智うんらいおんしゅくおうけち如来は、妙荘厳王みょうしょうごんのうに告げられました。

  かくごとかくごとし なんじ所言しょごんごと
  善男子ぜんなんし善女人ぜんにょにん 善根ぜんこんえたるがゆえ
  世世せせ善知識ぜんちしき 善知識ぜんちしきく仏事を
  示教利喜じきょうりきして阿耨多羅三藐三菩提あのくたらさんみゃくさんぼだいらしむ
  大王だいおう まさに知るべし 善知識ぜんちしき大因縁だいいんねんなり

 それを聞いた妙荘厳王みょうしょうごんのうは、佛の功徳をたたえ、一心に合掌し、
  「如来の法は不可思議微妙ふかしぎみみょうの功徳をそなえております。
  私は、今日より、心のおもむくままに行わず、しき心を起こさないことを誓います。」
 そう言って礼拝し、より去ったのでした。

 釈尊は、大衆に告げられました。 
  「この妙荘厳王みょうしょうごんのうは、今の華徳けとく菩薩であり、
  浄徳じょうとく夫人は、光照荘厳相こうしょうしょうごんそう菩薩に他なりません。
  そして、二人の王子とは、薬王やくおう薬上やくじょう菩薩のことなのです。
  この薬王やくおう薬上やくじょう菩薩は、このような大功徳を成就し、
  無量百千万億の諸仏につかえ、行を修したのです。
  この、二菩薩の名をるものは、天人や世の人々にうやまわれることでしょう。」

 世尊が、この妙荘厳王本事品みょうしょうごんのうほんじほんを語られた時、
 八万四千人のものが、けがれから離れ、清浄なるまなこを得たのでした。

    (妙法蓮華経普賢菩薩勧発品第二十八へ続く)

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 ※1 心静かに瞑想し平安の境地に入ること
 ※2 奇跡
 ※3 一切の浄らかな功徳に満ちた境地